刺身の上にたんぽぽ乗せる日記

プログラミングしたり、自販機の下に落ちてる小銭を集めたりしてます

近所のシュークリーム屋が潰れた

去年の5月に、日本に帰ってきたら突然できていたシュークリーム屋が潰れていた。
しばらくして、一応試してみたけど、特別美味しいわけではなく、特別安いわけではなく、特別量が多いわけではない。ベースラインとして適切かはわからないけど、100円で売ってるジャンボシューに美味しさ・値段・ボリューム全ての点で負けている。一体何を血迷って商売を始めたのか理解できないシュークリーム屋だった。
シュークリームを作っているのはどうやら定年前後くらいと思われるおじさん。このおじさんがシュークリームなんてファンシーなものを作っているのか、というのもまた不思議である。
何故シュークリーム屋を始めたのだろうか?ああ見えても、昔からお菓子づくりが大好きで、シュークリーム屋を始めるのが夢だったのかもしれない。定年退職して、退職金を使ってその夢を叶えたのかもしれない。もしかしたら、リストラにあって、自営業を始めようと思って、なんとなくこのエリアにシュークリーム屋がないから、程度に思って始めたのかもしれない。
ロケーションは御世辞にも良いとは言えない。大通りに面しているとはいえ、住宅街の方面で、そっちに住んでいる人しか用事はない。
最初の一ヶ月ほどはちらほら客がいた気がするが、次第に客足は遠のいていったように見えた。駅に向かう際に、前を通って覗いても、客がいることはほとんどなかった。適当に客単価を予想して、一日辺りの客を予想して、どのくらいの売上になるかを計算してみたが、儲かっているとは思えなかった。どのくらいの資本があるかわからないけど、一年くらいで潰れるだろう。そう思い、いつまで続くか見ていた。
しばらくして、最初の頃にいたレジ係も消え、店の中に残ったのは、コック帽をかぶって、椅子に座ったおじさんだけだった。その姿から発されるオーラは若干近づきがたく、奥に引っ込んでたほうがいいのに、と思った。
去年の末辺りだっただろうか。別の店のケーキを置いて売り始めた。どういう経緯でそんなことを始めたのかはこれまたよくわからない。ケーキ屋が知り合いだったのかもしれない。クリスマス頃だった気がするから、その需要に合わせて一儲けしようとしたのかもしれない。もしくは、ようやくシュークリームがだめだということに気づいたのかもしれない。どちらにせよ、経営が多角化したのは、迷走の現れだろう、もう冬は越せないかもしれないな。そう思っていた。
そして一年がたった。まだシュークリーム屋は営業していた。相変わらず中にはコック帽のおじさんだけ。客も相変わらずごくたまにみかけるだけ。うまく行っているようには見えなかったけど、一年もった、ってことは、見ていないところで結構売れているのかもしれない。もしかしたら美味しくなったかもしれないからもう一度試してみたほうがいいかもしれない。そう思い妻に話してみたところ、やっぱり客が入っているところを見かけていないらしい。
そして先週の帰り、夜中で暗い店内に目を向けた時に違和感があった。足を止めて中を見てみると、カウンターや棚が全てなくなっていた。こうして1年半たって終わってしまったようだ。
近いうちにこうなることは、すでに予想できていたわけだけど、あのおじさんがどうなってしまったかを想像すると若干心苦しい。退職金を使ったのか?年金を使ったのか?リストラされて一気奮発して起業したのが失敗したのか?どういうリスクを負って始めたのかはわからないけど、余剰資金以外がつぎ込まれていれば、もう人生がやり直せる年齢には見えなかった。
多分もうしばらくして、この街を離れることになりそうだし、きっと忘れるんだろうなと思って一応書いてみた。